“うめあわせ”には花がいい

家路に急ぐ人たちを横目に、いつもは通り過ぎるだけの小さな扉の前で足を止める。

――やっぱり無理だ。俺には無理だ!

そう思い立ち去ろうとした瞬間、
「プレゼントでお探しですか?」

予想していたよりもずっと低い声に呼び止められる。

「あぁ、もっとセレブなおば様が出てくると思ってました?」

「よく言われるんですよね~」と軽い調子で言って、拍子抜けしたまぬけな顔をしているであろう自分に笑顔を向ける男性。小脇には色とりどりの花が抱えられている。

妙に甘ったるい匂いに包まれているここは、いわゆる花屋というやつだ。
生まれてこのかた一度も足を踏み入れたことのない、できることなら踏み入れたくなかった場所の一つである。




“昨日、お母さんの誕生日だよ。ちゃんとお祝いした?”

出勤中に届いた娘からのメールに血の気が引いた。

――やってしまった。

すっかり忘れていた妻の誕生日。
なるほど、それで今朝の彼女はいつも洗ってくれる皿をテーブルに残したまま、一度も自分の顔を見ることなく仕事へ出かけたのだ。

うっかり会社で口を滑らせ、事の次第を知った部下から提案されたのが花を贈るという策だった。
「この前、同期が奥さんの誕生日にバラをあげたらしくて。喜んでくれたとかなんとか、さんざんノロケ聞かされたんです」

その部下の同期がバラを買ったという店――この花屋なら帰り道に寄れるから、というアドバイスを受け、のこのことやって来てしまった。
一連の話を聞いた店員(後でわかったことだが、彼が店主だったらしい)は、また愉快そうに笑いながら花を包み始めた。

――ん?ちょっと待て。

「あの、そのどでかい花束を持って帰らなきゃいけないんですか」

彼の手には、赤やら白やら緑色の花がそれはもうたっぷりと束ねられている。
電車を乗り継いで帰路に着くまで、いったいどれだけの人の視線を浴びるのだろう。想像しただけで冷や汗ものだ。
店員は少し考える仕草を見せたあと、「ちょっと待っててくださいね」と言って店の奥に姿を消した。

だいふ時間が経ったような気がする。
ようやく戻ってきたときには先ほどの花束はなく、代わりに弁当箱くらいの箱が抱えられていた。

「これで恥ずかしくないですよ」

蓋をあけると、さきほどの花が箱にぎっしり詰め込まれている。
なんだかよくわからないが、妻は喜びそうだ、と思った。

「仲直りできるといいですね」
「……ありがとうございます。せめてもの罪滅ぼしに、ですけど。頑張ります」

意外と重たいそれを受け取り、花屋を後にした。




――なんだ俺、やれば出来るじゃないか。

さっきまでの憂鬱な気分は軽くなり、なんならケーキも買って帰ろうかな、なんて思っている。妻はまだ怒っているだろうか。これを見たらなんて言うだろう。許してくれるだろうか。花なんて買ってきたと知ったら驚くだろうな。

――喜んでくれるといい。

こんな小さな箱に勇気をもらえるなら、もっと早く知っておけばよかった。
自然と足早になる帰り道。
手元のボックスが開けられるまで、あと数十分。

**************
ラルブルのTwitter(@Larbre_Flower)より。
「いつもの罪滅ぼしに(汗)」ってお花を買って帰る人は素敵ですね、ってお話でした。




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ホリ

ラルブルブログの文系(?)担当。普段は本に囲まれて生きています。 ブログではブライダル装花とギリシャ神話のお話を中心に発信中。 書いたり読んだり作ったりすることが好き!好きなお花はナチュラルな小花・野草系。 あなたのスキマ時間にそっと寄り添えるようなお花情報をお届けします✧˖°

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